厚生労働省ホームページより

インフルエンザ Q&A
医療従事者の方のために

●インフルエンザ総論・臨床

Q. 1: インフルエンザとはどういう病気ですか?

 インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、鼻咽頭、のど、気管支などを標的臓器とします。比較的急速に発症する38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などに加えて、咽頭痛、鼻汁、咳などの症状も見られます。大多数の人では特に治療を行なわなくても1−2週間で自然治癒します。しかしながら、乳幼児、高齢者、基礎疾患をもつ人では、気管支炎、肺炎などを併発したり基礎疾患の悪化を招いたりして、最悪の場合死に至ることもあります。
 普通のかぜとインフルエンザは、症状に多少の類似性があるものの疾病としては全く違うものです。普通のかぜはライノウイルスやコロナウイルス等の感染によって起こり、咽頭痛、鼻汁、咳などの症状が中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはあまりありません。また、インフルエンザは、基本的に流行性疾患であり、一旦流行が始まると、短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。
 呼称の似た、ヘモフィルス・インフルエンザ菌という細菌がありますが、これは以前インフルエンザの原因と間違われたためについた名称で、インフルエンザの原因ではなく、別の疾患の原因となります。

Q. 2: インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。

 症状については、突然の38〜39℃を超える発熱と頭痛、関節痛、筋肉痛などに加え、鼻汁、咽頭痛、咳などの上気道炎症状がみられ、全身倦怠感等の全身症状も出現します。流行期(我が国では例年11月〜4月)にこれらの症状のあった場合はインフルエンザの可能性が高いと考えられます。B型よりもA型(Q9〜11, ウイルスの項参照)のほうが症状は強い場合が多く、潜伏期は1日から5日(平均3日間)とされています。通常、症状は約1週間で軽快することがほとんどですが、肺炎などを合併する場合もあり注意が必要です。
 上気道炎症状を手がかりに、他の疾患と鑑別することは困難です。確定診断は、咽頭ぬぐい液、うがい液、鼻腔吸引液などからのウイルス分離や、血液検査で抗体価の有意な上昇(抗体陽転あるいは急性期と回復期で4倍以上の上昇)の確認で行いますが、検査に日数を要することから臨床現場での実用性は高くありません。しかし、流行中のウイルス種の同定や、次シーズンのワクチン株選定のためにはこれらの検体からのウイルス分離が重要な情報となります。
 臨床現場での診断補助のためには、発症早期にインフルエンザウイルス抗原を検出するための迅速診断キットがすでに開発されており、通常30分以内に結果を判定でき、ベッドサイドや外来でも診断が可能です。現在、5種類程度の迅速診断キットが流通していますが、検査の精度に違いがあり、感度は50〜80%程度と報告されています。

迅速診断キットには下記のような種類があります。
(以下は平成15年10月末現在市販されていることを把握している
迅速診断キットで、感染症研究所として推薦しているものではありません)
商品名 発売元
ホームページ
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インフルA・Bクイック デンカ生研
www.denka-seiken.co.jp
エスプライン インフルエンザA&B-N 富士レビオ
www.fujirebio.co.jp
キャピリア Flu A, B 日本ベクトン・ディッキンソン
www.bdj.co.jp
ディレクティジェンFlu A+B 日本ベクトン・ディッキンソン
www.bdj.co.jp
ラピットテスタ FLU AB 第一化学薬品
www.kensa-daiichi.jp
ラピッドビューインフルエンザA/B 住友製薬バイオメディカル
(近日開設予定)
(註:2003年10月に、感受性の比較的低いキットとして報道されたものは
掲載していません)

Q. 3: インフルエンザの合併症について教えてください。

 抵抗力の弱い高齢者・乳幼児、気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの方は、インフルエンザにかかると合併症を併発する場合があります。高齢者では細菌の二次感染による肺炎、気管支炎、慢性気管支炎の増悪が起こりえます。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが起こりえます。その他の合併症としては、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、アスピリンとの関連が指摘されているライ症候群などが挙げられます。合併症の状況によっては入院を要したり、死亡する例もあり注意を要します。近年我が国では、小児において年間100〜200例の、インフルエンザに関連したと考えられる急性脳症の存在が明らかとなり、現在病態の解明が進められています(Q35、脳症の項を参照)。

Q. 4: インフルエンザにはどんな治療法がありますか?

 他の疾患にも共通して言えることですが、早めに治療し、体を休めることは、自分のからだを守るだけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。一般的な注意点は、以下のようなことです。
 ・ かぜだと考えずに、早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
 ・ 安静にして、休養をとりましょう。特に睡眠を十分にとることが大切です。
 ・ 水分を十分に補給しましょう。お茶、ジュース、スープなど飲みたいもので結構です。

 インフルエンザに対する特異的な治療として、1998年11月から抗インフルエンザウイルス治療薬(Q5参照)が使用できるようになりました。また、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなりますが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎などの合併症に対する治療として抗菌薬が使用されます。これらの薬の効果については、インフルエンザの症状が出はじめてからの時間や病状により異なりますので、使用する、しないは医師の判断となります。なお、一般の感冒薬は、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわらげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。

Q. 5: インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?

 インフルエンザの治療薬としては、ここ数年で様々な薬剤が利用可能となりました。一方、予防薬は現時点では依然研究中であり、ワクチン接種が唯一の予防法です。
 本邦では平成10年11月に、インフルエンザの治療薬として抗ウイルス剤の塩酸アマンタジン(商品名シンメトレル)が認可されましたが、この薬剤は従来、パーキンソン病の治療薬として1970年代から用いられてきました。インフルエンザウイルスが細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスで細胞内にとりこまれ、M2イオンチャネルが活性化されるという、ウイルス粒子の細胞核内への輸送を、塩酸アマンタジンがM2イオンチャネルを阻害することにより阻止することで、抗ウイルス活性をもつと言われています。このようにA型だけが持つM蛋白に作用するため、A型インフルエンザのみにしか効果はありません。米国では重症化のおそれがあるとされるグループやワクチンの接種が出来ない者、医療従事者へのワクチン接種を補う予防薬としての位置付けが確立しています。しかしながら、本邦では抗ウイルス剤としての使用経験が少なく、また、アマンタジンを投与された患者の約30%でアマンタジン耐性のA型インフルエンザウイルスが出現するという報告もあることから投薬には注意が必要であり、投与期間を1週間程度に止めることという使用上の注意が出されています。副作用としては、主として嘔気などの消化器症状やふらつき、不眠などの中枢神経症状が軽度ながら出現することがあると報告され、使用した場合の注意事項としては、車の運転を避けることなどが挙げられています。
 近年、インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染、伝播していくために不可欠な、ウイルス表面に存在するノイラミニダーゼの作用をブロックすることによって、インフルエンザウイルスの増殖を阻害する抗インフルエンザウイルス剤が開発されました。ノイラミニダーゼはA、B型に共通であることから、A型、B型インフルエンザ両方に効果があります。現在2種類の薬剤が使用可能です。吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)と経口薬であるリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)は、平成13年2月より健康保険の適応となり、平成14年4月からはリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)ドライシロップが1歳以上の小児で、使用可能となっております。重篤な副作用は、アマンタジンに比べ少ないとされていますが、消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛など)の副作用が報告されています。
 これらは発症後48時間以内に服用しないと効果が少ないとされており、いずれも、医師の処方が必要な薬剤ですので、医療機関を受診して十分相談のうえ、処方をうけるよう指導をしてください。
 また、塩酸アマンタジンは催奇性が疑われるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌となっています。ザナミビル、リン酸オセルタミビルに関しては、妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、動物実験では薬剤の胎盤通過性が報告されており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合にのみ投与することとなっています。
 授乳婦に投与する場合は、安全性も確立していませんし、乳汁中に薬剤が移行することが動物実験などで報告されていることから、投薬中の授乳を避けることを勧めます(添付文書参照)。

Q. 6: 1歳未満の乳児がインフルエンザに罹った場合、リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)を投与してもいいのですか?

 リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)の添付文書において、幼小児の用法及び用量は定められていますが、乳児に対する用法及び用量は定められていません。1歳未満の乳児に対する本剤の投与については、禁忌とされているわけではありませんが、承認時において1歳未満の乳児に関する十分なデータがなかったことから、添付文書に「1歳未満の患児に対する安全性及び有効性は確立していない」と記載され、注意喚起がなされているところです。

 一方、米国ロシュ社が実施した動物実験において、1000mg/kg(日本で幼小児に対して通常使用する量の500倍の量)のリン酸オセルタミビルを生後7日目の幼若ラットに投与したところ、脳内の薬物濃度が成熟したラットの約1500倍高くなるという結果であったことが、平成15年末に明らかとなりました。その理由として幼若ラットでは血液脳関門が未熟である可能性が考えられていますが、この実験結果のみからヒトの乳児における臨床的な問題、危険性を明確に推察することはできず、現時点で1歳未満の患児に対する投与を禁忌とするだけの十分な根拠にはならないと考えています。

 このような状況において、1歳未満の乳児に対する本剤の投与については、禁忌ではないものの、安全性及び有効性が確立していないこと、また、幼若ラットの試験において薬物の脳内への高濃度の移行が確認されたとのデータがあることを踏まえて、インフルエンザと診断された患児においてリスクとベネフィットを十分考慮し、かつ、患児の保護者等に薬剤名、服用方法、効能、特に注意を要する副作用及び本剤の1歳未満の患児に対する安全性及び有効性が確立していないことなどについて丁寧に説明し、同意を得た上で、慎重に投与すべきです。(照会先:医薬食品局安全対策課)

Q. 7: インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。

 解熱剤には、インフルエンザに罹っているときは使用を避けなければならないものがあります。例えば、アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬は、15歳未満のインフルエンザの患者さんへ投与しないことになっています。

(サリチル酸系解熱剤関連リンク)
医薬品・医療用具等安全性情報No.151「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」 http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI151d.html#9

医薬品・医療用具等安全性情報No.167「サリチル酸系製剤の小児に対するより慎重な使用について」 http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI167d.html#11

 ジクロフェナクナトリウムを含む解熱剤についても、15歳未満のインフルエンザの患者さんへは投与しないことになっています。また、平成11年度のインフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班のよる研究では、インフルエンザ脳炎・脳症を発症した患者においてジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸の使用群が、解熱剤未使用群と比較してわずかながら有意に死亡率が高いと報告され、平成12年度の調査では、ジクロフェナクナトリウムの使用群と他の解熱剤使用群との比較をした結果、ジクロフェナクナトリウムの使用群についてより高い有意性をもって死亡率が高いことが示されました。また、脳の病理学的検査が行われ、脳血管に損傷が生じていることが特徴的に見出されました。この研究結果を踏まえ厚生労働省では、ジクロフェナクナトリウムについて、明確な因果関係は認められないものの、インフルエンザ脳炎・脳症患者に対する投与を禁忌とすることとし、ジクロフェナクナトリウムを含有する解熱剤を製造、販売する関係企業に対し、使用上の注意の改訂等を指示しました。

(ジクロフェナクナトリウム関連リンク)
厚生労働省発表資料「小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について」(平成13年5月30日)
http://www.pharmasys.gr.jp/happyou/PMDSI_010530_2.pdfPDF

医薬品・医療用具等安全性情報No.163「インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウム製剤の使用について」
http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI163d.html#16

 メフェナム酸という成分を使った解熱剤についても、厚生労働省が主催した会議における小児科の医師、インフルエンザ脳炎・脳症の研究者などの意見の一致に基づいて、アスピリン、ジクロフェナクナトリウムと同様に15歳未満の小児のインフルエンザに伴う発熱に対して投与しないことになっています。

(メフェナム酸関連リンク)
厚生労働省発表資料「インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について」(平成13年5月30日)
http://www.pharmasys.gr.jp/happyou/PMDSI_010530_1.pdfPDF

厚生労働省医薬品情報提供システム
使用上の注意改訂情報(平成13年6月15日) http://www.pharmasys.gr.jp/kaitei/kaitei20010615.html#1

 日本小児科学会では平成12年11月に、小児のインフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである旨の見解を公表しました。平成15年10月時点では、成人のインフルエンザに対する解熱剤投与に関しての勧告は出されておらず、医師の判断に委ねられています。参考までに、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸がインフルエンザ発症時の解熱剤として小児への使用が禁止されている理由のひとつとして、これらの薬剤が血管内皮細胞障害を修復する酵素の働きを抑制するため、脳症を発症した場合に重症化することが予想されている点があります。成人ではインフルエンザ脳症を発症する頻度は低いとされていますが、これらの薬剤の作用機序は同じであるため、脳症発症時には同様のリスクを考慮すべきであると考えられます。
 なお、医療機関で処方された薬は、医師が患者さんの状態を診察して、その状態に合ったものを必要な量処方しています。したがって別の人に処方された薬はもちろん、当人であっても別の受診時に処方されて使い残したものを使用することは避けるべきです。しかし現実問題として、時に家庭内や知人間で、他人に処方された薬を使用する事があり得ますので、普段からインフルエンザの発熱の際には使用してはいけない薬剤があるといった情報の提供を行うことが重要です。

別の疾患にかかったときに医療機関で処方された解熱剤の使用、特に家庭に残っているものをやむを得ず使用するにあたっては、処方した医師やかかりつけの医師によく相談して下さい。
また、薬局・薬店で購入できる市販のかぜ薬はかぜの諸症状を緩和するもので、インフルエンザに対する効果は認められていません。インフルエンザと思われる症状が現れたときはすみやかに医療機関を受診して下さい。

 また、市販の解熱鎮痛薬の一部にはアスピリンなどのサリチル酸系の解熱鎮痛成分を含んだものがあり、大人用への使用だけが認められています(15歳未満の子供向けには認められていません!)。医療機関を受診するまで差しあたっての処置として使用する際も、使用上の注意をよく読んで正しく使うようにして下さい。

Q. 8: インフルエンザの予防法について教えてください。

 予防の基本は、流行前にワクチン接種を受けることで、これは欧米では一般的な方法になりつつありますし、本邦でも年々わずかながらワクチン接種率の上昇が見られてきています。また、罹患した場合に重症化する可能性の高い人には、予防接種は重症化防止の方法としても有効です。インフルエンザは、罹患している人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫と共に放出されたウイルスを、鼻腔や気管など気道に吸入することによって感染します(飛沫感染)。インフルエンザが流行してきたら、特に高齢者や慢性疾患を持っている人や、疲労気味、睡眠不足の人は、罹患したとき重症化する可能性が高くなるので、人混みや繁華街への外出を控えましょう。
 空気が乾燥すると、インフルエンザに罹患しやすくなります。乾燥により咽頭粘膜のウイルス粒子に対する、物理的な防御機能が低下します。外出時にはマスクを利用したり、室内では加湿器などを使ったりして適度な湿度(50〜60%)を保ちましょう。常日ごろからバランスよく栄養をとることも大切です。外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せておすすめします。また、インフルエンザが飛沫感染であることから、インフルエンザに罹患し、咳嗽などの症状のある方は特に、周囲への感染拡大を防止する意味から、マスクの着用が推奨されます。なお、海外でアマンタジンを医療従事者などの発症予防に用いた報告などもありますが、抗インフルエンザウイルス薬の予防効果については国内での調査がまだ十分に行われておらず、現在のところ、予防内服は推奨されていません。

Q. 9: インフルエンザに罹患後、どのくらいの期間学校あるいは職場を休めばよいのでしょうか?

 一般的にインフルエンザウイルスに感染し、発症後3〜5日間ウイルスを排出すると言われています。この期間に患者は感染力があるといえますが、その長さには個人差がありますし、抗インフルエンザ薬の内服によって通常1〜2日間短縮されます。
 学校保健法では、「解熱した後2日を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としていますが、「ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、この限りではない」となっており、医師の裁量が認められています。また、職場復帰の目安については決まったものがありません。
 インフルエンザ罹患後には体力等の低下もありますので、以上のような点を考慮の上、いずれの場合も無理をせず十分な体力の回復ののちに、復帰するのが妥当と考えられます。

Q. 10: インフルエンザ患者の病室や衣類の管理はどのようにしたらよいでしょうか?

 一般的にインフルエンザの患者さんが部屋の中にいた場合、患者さんの飛沫(咳やくしゃみと共に出る)の中にインフルエンザウイルスがいる可能性がありますが、基本的にはインフルエンザは飛沫感染であり、飛沫というのは1〜2メートル以上は飛びませんし、患者さんがマスクをしていれば飛沫の発生は最小限に抑えられます。また、手指を介した接触感染もありますので、手洗いは重要です。しかし、狭い気密な部屋などでは、比較的長くウイルスが浮遊することもありますので、時々換気をすること、部屋の湿度を適度に保つことなどは意義があります。インフルエンザウイルスは、ほとんどの消毒薬に弱く、十分な湿度があれば生存期間も短いので、通常の清掃で十分だと考えられますが、あきらかな目に見える呼吸器分泌物による汚染がある場合には、通常の消毒薬により消毒しておくほうがよいでしょう。
 インフルエンザを発症中に使用した衣服にはウイルスが付着していることが予想されますが、これまでの知見ではこれから感染を起こすことはまれだと考えられています。使用後は、通常の洗濯をして日なたに干しておけばウイルスの感染性は消失します。


●ウイルス

Q. 11: インフルエンザウイルスについて教えてください。

 インフルエンザウイルスは、直径1万分の1ミリ(100nm)の多形性のオルソミクソウイルス科のRNAウイルスです。核蛋白(NP)と膜蛋白(M)の抗原性に基づいて、A・B・C型の3つに大別されます。A型はさらに、ウイルス粒子表面のHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)という糖蛋白により、多くの亜型に分けられます。B型も同様の糖蛋白を持っていますが、1つの亜型しかありませんし、C型はウイルス粒子表面にHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)と呼ばれるひとつの糖蛋白しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません。HAとNAの2つの糖蛋白の抗原性の変異で、大きな流行が起こることがあるとされています。歴史的にA型が大きな流行を起していますが、B型もヒトに感染し流行を起こします。C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。

 また、ウイルスは細菌とは異なり、生きた細胞の中でしか増殖できないため、インフルエンザウイルスは空気中や土壌中などの細胞外では増殖しません。ヒトに感染した場合は、鼻腔や咽頭粘膜表面の上皮細胞にあるシアル酸に吸着し、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれたのち、膜融合によってリボヌクレオプロテイン(RNP)が細胞内に放出されます。このRNPは細胞核へ輸送され、その中で増殖したのちに、ウイルス粒子の形でノイラミニダーゼの働きにより細胞から切り離され、細胞外へ放出されます。動物宿主もあり、トリ型インフルエンザがヒトに感染した例が報告されています。

Q. 12: インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?

 A型やB型のインフルエンザウイルスでは、ウイルス粒子表面から棘状に突出した、スパイク蛋白と呼ばれる、HA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の糖蛋白が、ウイルスの感染あるいは細胞内での増殖後のウイルスの放出に重要な働きをしています。
 A型のインフルエンザウイルスでは、現在HAは15種類、NAは9種類が報告されています。これらが様々な組み合わせで、複数の亜型として、ヒトや、ブタ、トリなどの多くの宿主に広く分布しています。例えば、A香港型といわれるウイルスはHAが3、NAが2という番号の組合せでH3N2となり、Aソ連型はH1N1です。いままでの流行から、H1、H2、H3はヒトの間で感染が起こり、流行株となりえることが知られています。また、多種の宿主を持つA型は人獣共通感染症としてとらえられており、渡り鳥や家禽がインフルエンザウイルスのいわゆる「運び屋」として注目を浴びています。1997年には、香港でトリ型のインフルエンザウイルスA/H5N1亜型が初めてヒトから分離され、2003年にも中国南部へ旅行した家族の感染が報告され、新型インフルエンザウイルスのヒトからヒトへの感染の可能性が疑われています。
 一方、B型のインフルエンザウイルスではそれぞれ1種類で、HA, NAの組合せによる分類は行われませんし、C型もHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません(Q9参照)。
 このように、ヒトがあるウイルス型に対して免疫を獲得しても、異なるスパイク蛋白をもつウイルスに対してはその免疫が効かず感染・発症してしまうことが考えられるので、1シーズンにA/ソ連型(H1N1)インフルエンザにかかったあとA/香港型(H3N2)にかかったり、A型インフルエンザにかかったあとB型インフルエンザにかかったりすることがおこります。

Q. 13: インフルエンザウイルスの変異について教えてください。

 インフルエンザウイルスのHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)は、同じ亜型の中でもわずかな変化が常に見られます。これは、A/香港型(H3N2)のインフルエンザウイルスでも、その年によってシドニー株類似ウイルスといわれるものであったり、パナマ株類似ウイルスといわれたりするもので、これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異と呼びます。車のマイナーモデルチェンジのようなもので、抗原性に多少の変化がありますので、巧みにヒトの免疫機構から逃れ、感染を受けた場合に今までの免疫で防げる場合もあれば、防げない場合もあります。このため、ヒトによっては毎年のようにA型インフルエンザに感染することも起こりますし、インフルエンザの流行も毎年起こっています。この変異の幅が大きいほど宿主免疫の効果は低くなり、感染して発症した時の症状も強くなるとされています。
 A型は上述のマイナーチェンジを続けながら数年から数十年単位で流行が続きますが、突然まったく別の亜型に取って代わることがあります。いわばフルモデルチェンジで、新型インフルエンザウイルスが出現したことになります。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異といいます。1918年に始まったスペイン型(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に代わり、流行は11年続きました。その後1968年には香港型(H3N2) が現われ、ついで1977年ソ連型(H1N1)が加わりました。現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっており、すでにA/香港型(H3N2)が30年、A/ソ連型(H1N1)が20年連続している状況では、これまでのインフルエンザの変化の歴史からみて、いつ新型に置き換わってもおかしくないため警戒が必要です。新型インフルエンザに免疫を持っているヒトはいないため、出現した場合には多くのヒトがインフルエンザにかかり、またその合併症による被害が甚大であろうことが予測されるため、世界的に対策が進められています。


●インフルエンザの流行

Q. 14: インフルエンザの疫学的特性は何ですか?

 インフルエンザは流行性の疾患で、流行時には短期間に全年齢層を巻き込み、膨大な数の患者を発生します。本邦では例年、11月から4月ごろまでの冬から早春にかけて流行しており、近年の流行のピークは、2月初め頃で、12月から患者数が増え始め、4月には終息することが多いようです(IDWR10年グラフ最新版へ)。
 インフルエンザは、平成15年11月の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の改正で第五類感染症の定点報告疾患となりました。インフルエンザの患者情報は、全国5,000の定点医療機関(小児科3,000と内科2,000)から法に基づいた報告が週単位で集められています。臨床診断に基づいて、1.突然の発症、2.38℃を越える発熱、3.上気道炎症状、4.全身倦怠感等の全身症状の、四つの規準を全て満たすインフルエンザ様疾患と、必ずしも臨床の規準は満たしていないが、ウイルスの分離や抗体価の検査で、インフルエンザと診断されたものが報告されています。2002/2003シーズン(11月〜4月)では、約120万人、定点当たり約240人の報告がありました。この報告数は、実際の患者数の一部分ですので、定点からの報告を基に同シーズンの全国での罹患数を推計したところ約1500万人の方がインフルエンザに罹患したと推計されます。
 患者数の報告はこのほか、全国の保育所、幼稚園、小学校、中学校等における休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を把握するための「インフルエンザ様疾患発生報告」があります。この10年ほどを見ると、多い年では約128万人(1997/1998シーズン)が報告されており、また2002/2003シーズンでは約49万人が報告されています。
 性別での罹患状況には特に差はありませんが、年齢別では10歳未満の小児の罹患が多く報告されています(IASR特集へリンク)。下図は、厚生労働省発表の人口動態統計にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡として届けられたものです。近年は死亡のほとんどを高齢者が占める傾向が続いています。また、インフルエンザの大きな流行があると、非流行時に比べ死亡者数が著しく増加する傾向が認められます。世界保健機関(WHO)は、これを「超過死亡(excess death, excess mortality)」と呼ぶ概念で、インフルエンザの流行の社会への影響の大きさを評価する際に利用することを推奨しています(IASR超過死亡の記事へリンク)。2002/2003シーズンは1万人を越える超過死亡が認められ、その患者報告数も最近10シーズンで3番目に多く、比較的大きな流行であったことがわかります。

インフルエンザによる死亡者数

 また、最近数年は九州地方から定点当たりの報告数が増え始め、北上する傾向がみられますが、これに科学的な説明はありません。

 流行や検出の現状は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
 ○ 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

Q. 15: インフルエンザの流行の歴史について教えてください。

 インフルエンザの流行は歴史的にも古くから記載されていますが、科学的に立証されているのは1900年ごろからで、数回の世界的大流行が知られています。中でも、1918年に始まった「スペインかぜ(A/H1N1亜型)」は被害の甚大さできわだっています。当時、インフルエンザによる死亡者数は全世界で2,000万人とも4,000万人ともいわれ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています。その後、1957年にはアジアかぜ(A/H2N2亜型)が、1968年には香港かぜ(A/H3N2亜型)が世界的な大流行を起こしています。次いで1977年にはA/ソ連型(H1N1亜型)が加わり、現在はA型であるH1N1亜型(一般にA/ソ連型と呼ばれます)とH3N2亜型(一般にA/香港型と呼ばれます)、及びB型の3種類が世界中で共通した流行型になっています。
 従来1種類あるいは2種類の型の混合流行を続けていたインフルエンザですが、最近は2000/2001シーズン、2001/2002シーズンにみられるようにH1N1型、H3N2型、B型の3種類すべてが混合流行するかたちが続いていました。しかし、昨シーズン(2002/2003)は比較的大きな流行でしたが、前2シーズンとは異なり、従来のようにH3N2型とB型2種類の流行で、H1N1型はほとんどみられませんでした。

Q. 16: 今年流行するインフルエンザはどの株ですか?

 最近は、2種類のA型インフルエンザとB型インフルエンザの3種類の型のウイルスが、同じシーズンの中で検出されています。2001/2002シーズンは、2月初めにA/H1N1(ソ連)型を中心としたA/H3N2(香港)型との混合の流行がみられ、ビクトリア系統株を中心としたB型がこれに少し遅れて、3月初めに流行のピークがみられました。2002/2003シーズンは、A/H3N2(香港)型と昨年と同じビクトリア系統株のB型が11月終わり頃からほぼ同時に流行し始め、A型が1月の後半に、B型が1月末から3月にまで至る長いピークがみられました。
 患者分離株の分析と、南半球の流行状況も考慮して、2003/2004シーズンは昨シーズンと同じ種類の株が流行する可能性が高いと判断され、今年のワクチンには、A/H1N1(ソ連)型のニューカレドニア株、A/H3N2(香港)型のパナマ株(シドニー株に対応できる)、B型の山東株(ビクトリア株に対応できる)を混合したものが用意されました(ワクチン株の選定文書へリンク)。
 全国の流行や検出の現状は、地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
 ○ 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

 各地方のインフルエンザウイルスの情報は、患者の皆さんと全都道府県にあるインフルエンザ定点医療機関の協力によってウイルス検査のための検体が集められ、地方衛生研究所で分離検査が実施されています。ピーク時には週1,000件以上が分離されています。ウイルスの分離は時間がかかるので患者さんの発生より遅れてそのデータが集まってきますが、ウイルス検出の状況は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
 ○ 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

 ○ 地方衛生研究所・保健所ホームページへのリンク:
http://idsc.nih.go.jp/others/phc.html

参考:我が国のインフルエンザに関連する調査

1)感染症法に基づく定点医療機関からの報告数:小児科約3,000、内科約2,000、計5,000の全国のインフルエンザ定点医療機関から週単位で保健所に報告されている。

2)病原体定点からの流行株情報:定点医療機関の内約10%が病原体定点となり咽頭ぬぐい液などを採取し、地方衛生研究所で検査している。

3)インフルエンザ様疾患発生数:保育所、幼稚園、小学校、中学校等におけるインフルエンザ様疾患の発生数(学童数)、休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を各学校および各都道府県の教育担当部局の協力を得て週単位にまとめて、把握している。

4)インフルエンザ迅速把握事業(毎日報告):インフルエンザ定点の約1割から毎日インフルエンザ患者の報告を受け、結果を参加医療機関に毎日還元するシステムで、結果の一部はホームページ上で一般公開している。全シーズンのデータ解析から得られた補正方法により、リアルタイムに流行を把握する手段として有用性が認められている。

5)感染症流行予測調査事業:厚生労働省が実施主体となり、全国約20〜30の都道府県、都道府県衛生研究所、国立感染症研究所が協力して毎年7〜9月に健常人から採血し、ワクチン株3株(A/H1N1,A/H3N2,B型)と抗原性の異なるB型インフルエンザウイルス、計4株のHI抗体価を測定し報告している。調査結果は、10月末頃から国立感染症研究所感染症情報センターのHP上(http://idsc.nih.go.jp/yosoku99/index.html)に速報として公開し、年齢別の抗体保有率と過去3年間の年齢別抗体保有率の推移を報告している。また、この情報はその後のワクチン接種の勧奨などに利用されている。

6)インフルエンザ関連死亡迅速把握システム:14大都市にしぼり、インフルエンザによる死亡および肺炎による死亡に関するデータを収集する。人口動態統計(全国)からも流行の状況は確認できるが、情報入手までに約3ヵ月かかるのに対し、この迅速把握報告による情報は週単位とタイムラグが短く、実際の流行の開始を良く反映している。14大都市における超過死亡の推計は国レベルでのインフルエンザによるインパクトを推定し、診断キットや治療薬の適切な流通などの対策にも利用できる。

Q. 17: 新型インフルエンザは現れるのでしょうか?

 かつてスペインかぜ(A/H1N1亜型)が現れたときは、大規模な流行と甚大な数の死者を出しました。新型インフルエンザが流行した場合、これに対して免疫を持っている人はいませんし、また事前に接種された予防接種の効果はほとんど期待できないため、かなりの数の罹患者と死亡者がでることが予想されます(Q13インフルエンザの変異参照)。アメリカでは8〜20万人の死者がでると予測されており、本邦でも3〜4万人の死者が出ることが懸念されます。
 1997年に香港で発生した、新型インフルエンザ(A/H5N1亜型)ウイルスによる患者報告を例にあげると、入院加療を受けた18症例中6例が肺炎の合併などにより死亡し、香港政府は1997年12月末、140万羽のニワトリを殺処分しました。このウイルスはヒトからヒトに感染したものではなく、恐らく感染しているニワトリからヒトに感染したものと考えられています(IASR Vol 18,No 9 http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/211/dj2111.html">http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/211/dj2111.html)。2003年には、中国南部へ旅行した家族の感染が報告されており、こちらはヒトからヒトへの感染が疑われています(IASR Vol 24,No3 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/fr2771.html )。
 2003年2月にはオランダで、病原性の高いインフルエンザが鶏の集団で流行したことに関連して、やはりトリ型インフルエンザウイルス(A/H7N7)のヒトへの感染が報告され、1例の重症肺炎による死亡者と82例の結膜炎を中心とした感染者が報告され、家庭内でのヒトからヒトへの感染が確認されています(IASR Vol 24,No 6 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/280/fr2801.html)。
 2001/2002シーズンに英国、イスラエル、エジプトなどで初めてヒトから分離されたA/H1N2が、平成14年に本邦でも分離されました。この亜型は、トリインフルエンザとは異なり、従来のA/H1N1とA/H3N2の交雑したものなので、これまでのインフルエンザHAワクチン(A/ H1N1)で効果があると考えられています(IASR Vol 23,No 8 http://idsc.nih.go.jp/iasr/23/270/pr2704.html)。
 これらのウイルスがこのままヒトの前から姿を消してしまうのか、あるいは再び勢いを盛り返して流行するかは予断を許さず、さらにまたどのようなメカニズムでトリのウイルスが直接ヒトへ感染を起こしたのか解明が必要であり、こうした経路以外の感染の可能性なども十分に予想されます。いままでの新型インフルエンザはいずれもA型であることから、迅速診断キットでも検出が可能であり、サーベイランス体制を強化して監視していくことが必要です。
 厚生労働省では、現在、新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会を開催して、対策を検討しています。
 なお、鳥インフルエンザに関しては、別に「鳥インフルエンザに関する情報」http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1112-1f.html を設けていますので、そちらを参照ください。

Q. 18: インフルエンザの外国での流行状況を教えてください?

 インフルエンザは世界中で流行していますが、温帯地方では冬に(南半球では7〜8月)、熱帯・亜熱帯地方では雨季を中心に流行が見られます。流行株は国によって若干の差はありますが、大きな差はありません。アメリカ合衆国では、毎年数百万人、人口の10〜20%が罹患すると推計されており、年間に約2万人もの死者が出ています(CDC)。世界の流行状況は、WHOが発行しているホームページ: http://rhone.b3e.jussieu.fr/flunet/www/ などで知ることができます(インフルエンザのページにあるリンクをご活用ください)。


●ワクチン接種

Q. 19: インフルエンザワクチンの接種は効果があるのですか?

 インフルエンザワクチンの接種を行うことで、インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、健康被害を低く抑えることが期待できます。このワクチンの効果は、年齢、本人の体調、そのシーズンのインフルエンザの流行株とワクチンに含まれている株の合致状況に寄っても変わりますが、厚生科学研究費による「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊(ひとし)(国立療養所三重病院))」の報告によると、65歳以上の健常な高齢者については約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったとしています。
 インフルエンザに対する治療薬も実用化されていますが、感染前にワクチンで予防することがインフルエンザに対する最も有効な防御手段です。特に65歳以上の方や60歳から64歳の基礎疾患を有する方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)では、インフルエンザが重症化しやすいので、かかりつけの医師とよく相談のうえ、接種を受けられることをお勧めします。
 また、インフルエンザの流行株は毎年変化しますし、ワクチン接種による重症化の予防に有効な免疫レベルの持続期間はおよそ5ヵ月となっていますので、毎年接種することをお勧めします。今年流行が予測されるウイルスにあったワクチンを、インフルエンザが流行する前に接種し、免疫を高めておくことが大切です(Q20,Q21参照)。
 なお、当然のことですが、インフルエンザのワクチン接種ではSARSはもちろん、他のかぜウイルスによる「かぜ」(かぜ症候群)にも効果はありません。

Q. 20: インフルエンザワクチンの製造やワクチン株の選定はどのように行われているのですか?

 日本で使用されているワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを発育鶏卵の尿膜腔内に接種して培養、増殖させ、漿尿液から遠心にて濃縮・精製し、ウイルス粒子をエーテル等で処理し、その副反応の原因と考えられる脂質成分の大部分を除去したHA画分浮遊液とし、更にホルマリンで不活化(病原性をなくすこと)したHAワクチンです。このように、インフルエンザワクチンは有精卵から作られるため、急な大量生産は出来ませんので、毎年種々の状況を検討し、生産量が慎重に決められています。
 本邦のインフルエンザワクチンに含まれるウイルス株は、シーズン前の人々の抗体保有状況、昨シーズンや世界各国のインフルエンザの流行状況を考慮し、WHOの推奨株を参考に、毎年、厚生労働省によって決定されます。現在のインフルエンザワクチンには、A型2種類およびB型1種類が含まれており、A/ソ連(H1N1)、A/香港(H3N2)、B型のいずれの型にも効果があります。流行するウイルス株は毎年変わりますので、ワクチンに含まれている株とその年の流行株が異なった場合には、ワクチンの効果は減少しますが、最近の10年間はほぼ一致しており、有効なワクチンが生産されています。平成15年度のインフルエンザHAワクチン製造株については、 A型株:A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)及びA/パナマ/2007/99(H3N2)、B型株:B/山東/7/97が決定されました。

Q. 21: インフルエンザのワクチンはいつごろ接種するのが効果的でしょうか?

 インフルエンザに対するワクチンは、個人差はありますが、その効果が現れるまで通常約2週間程度かかり、約5ヶ月間その効果が持続するとされています。多少地域差はありますが、我が国のインフルエンザの流行は12月下旬から3月上旬が中心になりますので、12月上旬までには接種をすまされることをお勧めします。2回接種の場合は、2回目は1回目から1〜4週間あけて接種しますので、1回目をさらに早めに接種しましょう。

Q. 22: インフルエンザワクチンの接種はどこでできますか?

 地域の医療機関、かかりつけ医などでインフルエンザの予防接種を受けることが可能です。任意接種では接種期間に制限はありませんが、予防接種法に基づく接種や自治体独自のワクチン接種奨励事業などでは、各自治体で期間や費用などが異なることがあります。ワクチン接種可能な医療機関や地域での取り組みについては、それぞれの地域の保健所、市町村(23区)、医療機関、かかりつけ医などに問い合わせていただくようお願いします。

Q. 23: インフルエンザワクチンを接種した方がよいのはどのような人でしょうか?

 重症化と死亡の報告が多い65歳以上の高齢者の方と、60歳から64歳の基礎疾患がある方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)は、ワクチンの接種を受けておくことが勧められます。また、欧米では6ヵ月から24ヵ月未満の乳幼児もインフルエンザの重症化率が高いと報告されており、ワクチン接種による予防が望ましいと考えられており、米国などでは接種を勧めています。

 いずれにしても、かかりつけの医師と相談のうえ、流行期に間に合うようワクチンを接種することを勧めます。

Q. 24: インフルエンザのワクチン接種を受けることが適当でない人や接種時に注意が必要な人はありますか?
1)  ワクチン接種には不適当と考えられる方は、予防接種法に以下のように示されています。

<予防接種実施規則第6条による接種不適当者(抜粋)>
(1)  明らかな発熱*を呈している者
(2)  重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
(3)  当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明らかな者
(4)  その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
 *: 通常は、37.5℃を超える場合をいいます。

 また、既往などから、接種の判断を行うに際して注意を必要とする方(接種要注意者)がおられますが、この方々は接種禁忌者ではありません。ただし、接種を受ける方の健康状態及び体質を勘案して接種の可否を判断し、接種を行う際には被接種者に対して、改めて十分に効果や副反応などについて説明し、被接種者が十分に理解した上での接種希望であることを確認した上で、注意して接種を行う必要があります。

<予防接種実施要領に基づく接種要注意者>
(1)  心臓血管系疾患、じん臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を有することが明らかな者
(2)  前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
(3)  過去にけいれんの既往のある者
(4)  過去に免疫不全の診断がなされている者
(5)  気管支喘息のある患者
(6)  インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者

2)  インフルエンザワクチン接種の適応に関しては、年齢の下限はありませんが、通常生後6ヶ月未満の乳児にはワクチンを接種しません。これは、ワクチンの効果に関しておよび、ワクチン接種の副反応に関しての研究がまだ少なく、十分な知見が得られていないこと、また、この月齢までは母体由来免疫の効果が期待できることに由来しています。このような場合には、同居する家族がワクチンなどでインフルエンザを予防することで、家庭内にインフルエンザウイルスが持ち込まれることを防ぐといった方法が考えられます。

3)  インフルエンザワクチンは病原性をなくした不活化ワクチンであり、胎児に影響を与えるとは考えられていないため妊婦は接種不適当者には含まれていません。しかし、妊婦又は妊娠している可能性の高い女性に対するインフルエンザワクチンの接種に関する、国内での調査成績がまだ十分に集積されていないので、現段階ではワクチン接種によって得られる利益が、不明の危険性を上回るという認識が得られた場合にワクチンを接種する、ということが適切ではないかと考えます。妊娠初期はいろいろな理由で流産する可能性の高い時期なので、一般的に予防接種は避けた方がよいと考えられます。米国の報告では、もしワクチンを受けるならば、妊娠のごく初期(妊娠13週前後まで)を除き、インフルエンザシーズンの前に行うのが望ましい、とされています。現在のところ、妊婦にワクチンを行った場合に生ずる特別な副反応の報告は無く、また、妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータも無いことから、予防接種直後に妊娠が判明しても人工妊娠中絶をする必要はないと考えられております。

4)  熱性けいれんの既往がある方に対するワクチンの接種に関しては、予防接種ガイドライン(2003年発行:(財)予防接種リサーチセンター、監修 厚生労働省結核感染症課)に次のように記載されています。
「単純性熱性けいれんと診断がついた小児には、一般児と同様に接種する。ただし、発熱時の対応については、解熱剤、抗けいれん剤の使用等、事前に十分指導をしておく必要がある」

 また、けいれん発作後どの程度期間を取れば、良性のけいれんか、神経学的な基礎疾患があるのかを明らかにすることは、接種前の予診段階で判断することは現実的には難しいと考えられており、けいれんを起こしてからどのくらい期間をあければワクチン接種が可能であるかに関しての統一した見解はないようです。臨床の場では一般的に、単純性熱性けいれんの発作後、2ヶ月くらい発作が無ければ接種可能としている小児科の先生が多いようです。小児神経学会でも最近、単純型の熱性けいれんではいつでも、また複合型熱性けいれんでもひきつけの2〜3カ月後ならば、どのワクチンを受けてもかまわないと指導しています。
 つまり接種は可能ですが、けいれん発作でも、てんかんによる場合には取り扱いが変わってきますので、かかりつけの小児神経専門の先生とよく相談して接種を受けるかどうかを決めることが大切です。

5)  てんかんの既往がある方に対しては、発熱で容易に痙攣重積発作を起こす場合もあるので、てんかんを治療している主治医あるいはその依頼に基づき、事例ごとに検討して、ワクチンを接種するか、しないかを決めるのが望ましいと考えます。

Q. 25: 卵やゼラチンにアレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?

 卵アレルギーの程度にもよりますが、ほとんどの場合問題なく接種できます。ワクチンの製造過程において、インフルエンザウイルスの増殖に発育鶏卵を用いるために、ごくわずかながら鶏卵由来成分が残って、それによるアレルギー症状がまれに起こることもありえます。しかしながら、近年は高度に精製されていますので、通常は卵アレルギーがあってもほとんど問題となりません。しかしながら、重篤な卵アレルギーがある方、例えば鶏卵を食べてひどい蕁麻疹や発疹を生じたり、口腔内がしびれたりする方や、卵成分でアナフィラキシーショックを起こしたことがある方は、ワクチン接種を避けるか、インフルエンザの罹患リスクとワクチン接種に伴う副反応リスクとを考慮して、接種前にかかりつけの医師とよく相談のうえ、十分に注意して接種することを勧めます。
 また、ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンに対するアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が報告されていましたが、現在、インフルエンザワクチンを生産している4社からの製品にはいずれも、ゼラチンはふくまれていません。

Q. 26: 授乳中にインフルエンザワクチンを接種しても問題はありませんか?

 授乳婦はインフルエンザワクチンを接種しても支障はありません。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンというタイプで、病原性をなくしたウイルスの成分を用いているため、体内で増えることも無く、母乳を介してお子さんに影響を与えることもありません。また、母親がワクチン接種を受けることで、乳児に直接のインフルエンザ感染の予防効果を期待することはできません(Q23参照)。また同様に、ワクチン接種による精子への影響もありませんので、妊娠を希望しているカップルの男性の接種に問題はありません。
(参考)
 仮に授乳期間中にインフルエンザウイルスに感染した場合も、このウイルスは主に気道系の上皮細胞で増殖しますので、血液中にウイルスが存在することは極めて稀です。また、存在した場合でも非常に微量であると言われています。したがって、母乳中にインフルエンザウイルスが含まれ、母乳を介して乳児に感染を起こすことはほとんど無いと考えられます。しかし、授乳という行為は乳児との密接な接触を必要としますので、乳児は母親の飛沫を大量に曝露を受けることになります。そのため、個人差はありますが、インフルエンザ発症後3〜5日間はウイルスを排出すると言われており、飛沫中にはウイルスが大量に存在していますので、この期間中は直接母乳を与えることは避けた方が良いでしょう(Q9参照)。なお、抗インフルエンザ薬を使用した場合は、薬剤が母乳中に移行すると言われており投与中の授乳はできません(Q5参照)。

Q. 27: ウイルス疾患に罹患したり、定期予防接種の時期と重なった場合にはどうすればよいですか?

 麻疹や水痘などに感染してしまった場合には、一般的には完治後4週間はワクチン接種を控えた方が良いとされています。これらの疾患に罹患すると、免疫能が低下していることがあるため、接種したインフルエンザワクチンに対して十分な免疫が得られない場合があり、期間をあけた方が良いとされています。

 小児の定期予防接種と日程が重なった場合は、基本的には定期の予防接種を優先しますが、地域でのその疾患の流行状況やインフルエンザの流行の状況からインフルエンザワクチンの接種を優先する場合もありますので、かかりつけの医師と十分ご相談のうえ判断して下さい。
 定期予防接種のうち生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、BCG)であれば4週間以上、不活化ワクチンやトキソイドワクチン(DPT、DT、日本脳炎)であれば1週間以上間隔をおけば、インフルエンザワクチンは接種可能となります。
 またインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、接種後は1週以上間隔をおけば他のワクチン(生ワクチン、不活化ワクチンとも)接種が可能となります。

Q. 28: インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?

 現在、日本で行われているインフルエンザの予防接種に使用するインフルエンザHAワクチンについては、平成12年4月に中央薬事審議会において最近の研究成果を踏まえ、接種回数の見直しにつき審議が行われた結果、平成12年7月から薬事法上の用法・用量が以下のようになりました。
年齢群 接種用量・方法 接種間隔・回数
13歳以上 0.5mlを皮下 1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回接種
6歳〜13歳未満 0.3mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回
1歳〜6歳未満 0.2mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回
1歳未満 0.1mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回

 また、65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも効果があり、2回接種による免疫の強化に関する効果についての評価は定まっていませんので、現在は1回接種が推奨されています。これは、厚生科学研究費による研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊(ひとし)(国立療養所三重病院))」において、高齢者(65歳以上)に対するインフルエンザワクチン1回接種法による有効性の評価を行った結果、接種を行った後の抗体価の上昇は良好であり、重症化は十分に阻止する事が可能であったという報告に基づいています。また、これらの高齢者に接種した際の重篤な全身反応はなく、局所反応も軽微でした。
 なお、予防接種法により、「65歳以上の方」、「60歳から64歳までの方で、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の周りの生活を極度に制限される方、又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方」については、年1回、予防接種法による定期接種を受けることができ、万が一副反応が出て健康被害にあっても、その1回の接種については、予防接種法による救済制度が適用されます。詳しくは「予防接種法関係」をご覧下さい。
 13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザの予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫による十分な効果が得られる方もあると考えられます。2回接種をしたほうがより抗体価は上昇するという報告もあり、接種回数が1回か2回かの最終的判断は、被接種者の意思と接種する医師の判断によりますので、接種の際には最近インフルエンザにかかったことがあるかどうか、最近ワクチン接種を受けたことがあるかどうかとその時期、そして現在の体調などを担当医師に十分伝え、よく相談して下さい。
 欧米諸国では、新しい型のインフルエンザウイルスが出現しない限り、年少児を除いて、ほとんどの人がインフルエンザウイルスに対する基礎免疫を獲得しているので、1回の接種で追加免疫の効果があると調査結果から考えており、これらを参考にして本邦でも、接種回数に関する見直しが行われました。

Q. 29: インフルエンザワクチンの接種に関するガイドラインはありますか?

 平成13年度に、都道府県へ厚生労働省から「インフルエンザ予防接種ガイドライン」が配布されています。
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html

Q. 30: インフルエンザワクチンの接種による副反応にはどのようなものがありますか?

 一般的に副反応は軽微で、10〜20%で接種局所の発赤、腫脹、疼痛をきたすことがありますが2〜3日で消失します。全身性の反応としては、5〜10%で発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などみられますが、通常は軽微で、やはり2〜3日で消失します。また、ワクチンに対するアレルギー反応として、まれに湿疹、じんましん、発赤と掻痒感などが数日見られることもあります。
 また、麻疹ワクチンなどの生ワクチンと混同されることが良くありますが、インフルエンザワクチンはQ18にあるように、不活化ワクチンですので、その接種によってインフルエンザを発症することはありません。ワクチン接種後に発熱した場合も、インフルエンザ以外の冬季に見られる呼吸器疾患に罹患した可能性もあり、必ずしもワクチンの副反応とは限りません。
 卵アレルギーの人には蕁麻疹、発疹、口腔のしびれ、アナフィラキシーショックなどが現れる可能性があります(Q27参照)。その他にギランバレー症候群(GBS)、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、けいれん、肝機能障害、喘息発作、紫斑などの報告がありますが、これらの疾患とワクチンとの関連については明らかになっていません。ただし、米国ではこれまでにギランバレー症候群を発症したことがある人においてはインフルエンザワクチンを接種しない様に指導されています。
 極めてまれですが、死亡例の届け出もあります。これまでの我が国での統計では、インフルエンザワクチンによる可能性があると認定された死亡事故は約2,500万接種あたり1件です。

Q. 31: インフルエンザワクチンに神経疾患の原因となる水銀(チメロサール)が含まれているというのは本当ですか?

 本邦の製品を含め、世界で生産されているインフルエンザワクチンをはじめとした不活化ワクチンには、1930年頃よりチメロサールと呼ばれる輸送・保存時の防腐剤が、容器内の細菌などによる汚染を防ぐ目的で含まれています。チメロサールは約49%のエチル水銀を含んでいますが、健康被害が報告されているメチル水銀とは異なり、神経組織を始めとした臓器親和性は低く、その半減期(体内に取り込まれた量が半分に減るのに要する期間)も短くて、1週間未満(メチル水銀は半減期約1ヵ月半)とされています。現在のところ、実際的な健康被害の報告も、ワクチンに含有されているような少量で、局所の発赤や軽度腫脹以上の、重大な健康被害(神経疾患など)を生じるといったような因果関係を証明する研究報告もありませんが、水銀剤であるということから安全性に対する問題点が議論されています。WHOは当面はチメロサールを可能な限り減量し、将来的には代換えとなる保存剤を開発し、これを除くことを各国に向けて勧告しています。本邦でもこの勧告を受け入れ、減量の方向で努力が続けられ、現在市場に流通している製品には、痕跡程度の量(0.008mg/ml〜0.1mg/ml)のチメロサールしか含まれていません。また、少量ではありますが昨シーズンからチメロサールを含まない製品(北里研究所)もつくられるようになっています。しかし、このような製品は従来のものに比べて保存がきかず、取り扱いにも注意が必要となるため、価格や接種手技上の問題点も残っています。

Q. 32: インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるのですか?

 予防接種法による定期接種の場合、予防接種と健康被害との間に関係があることが否定できないと認定されると、予防接種法による被害救済の対象となります。詳しくは「予防接種法関係」をご覧下さい。
 また、予防接種法の定期接種によらない任意の接種によって健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。詳細な内容は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。

Q. 33: インフルエンザのワクチン接種の費用はどうなるのですか?

 予防接種については、健康保険が適用されませんので、原則的として全額自己負担となります。
 ただし、65歳以上の方、及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方などは、予防接種法による定期の予防接種の接種対象となりますので、詳しくはQ36,Q37,Q39をご覧下さい(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、居住地の市町村あるいは東京23区の場合は区にお尋ね下さい)。各市町村(東京23区の場合は区)により予防接種期間や、自己負担額が異なりますので、個別の情報については、それぞれの地域の市町村(東京23区の場合は区)へお問い合わせください。
 また、そのほかの方の接種は従来どおりの任意接種で、ご本人と医療機関との契約と言うこととなりますので、費用も全額自己負担となります(費用は医療機関により異なりますので、接種を受ける医療機関へお問い合わせください)。使用されるワクチンはすべて、厚生労働省の決定したワクチン株を使用し、検定を受けていますので、ワクチンの品質に差はありません。

Q. 34: インフルエンザワクチンは国によって違うのでしょうか?

 インフルエンザワクチン株の選定はほとんどの国で、WHOにより2月中旬に出される「北半球次シーズンに対するワクチン推奨株」に基づき、自国およびその他の国々における諸情報を総合的に判断して決定しています。つまり、各国が独自に決定することになりますが、基本的にWHOの推奨株の情報をもとにしているため、ワクチン株が国によってまったく異なるということはこれまでほとんどありません。また、毎年のインフルエンザシーズンにおいて、国ごとに主に流行するインフルエンザウイルスの型(A/ソ連型、A/香港型、B型)が異なることはありますが、流行した3つの型における抗原性が、国ごとに大きく異なっていたことはほとんどありませんでした。流行しているインフルエンザウイルスの抗原性がワクチン株と同じである限り、たとえば日本で接種したワクチンも、中国で流行しているインフルエンザに効果がありますし、逆に中国で接種したワクチンも、日本で流行中のインフルエンザに対して効果があることになります。但し、ワクチンの製造方法や添加物などは国によって若干の違いがあるため、免疫原性や副反応の頻度には差があります。
 インフルエンザワクチンは個人防御のために行うもので、外国へ出張予定者も、インフルエンザウイルスに感染時に発症や重症化を防ぐためには、インフルエンザワクチンの接種は効果があります(Q1参照)。特に今冬はSARS対策に関連して、WHOをはじめ世界各国が、医療従事者へのインフルエンザワクチンを推奨しています。これは、もし今冬SARSの再発生があった場合に、すべての発熱性疾患がSARSと混同される可能性があるため、出来る限りそれを回避しようという意図から取られている対策です。したがってWHOの分類で、よりSARSの再発生の危険性が高いところに分類されている国に行く場合には、「混乱を避ける」意味でも、インフルエンザワクチンの接種を受けておくことに意義があると考えられます。

国立感染症研究所のホームページに、WHOの勧告が掲載されています。
参照:
「2003-04シーズンのインフルエンザ予防接種:SARSへの配慮を含めた提言」
http://idsc.nih.go.jp/others/sars/sars03w/07infl-vc.html

Q. 35: インフルエンザワクチンでインフルエンザ脳症を予防できますか?

 インフルエンザ脳症に対するインフルエンザワクチンの予防効果については、日本小児感染症学会運営委員会の専門家が、「脳症の予防にインフルエンザワクチンが有効かどうかのデータはないが、インフルエンザ関連脳症のほとんどの症例がA香港型インフルエンザに伴って発症しており(1998/1999シーズンのデータに基づく)、ウイルス血症が発症に関与しているとすれば、ワクチン接種は有効と考えるのが妥当である。また、インフルエンザ発病から中枢神経系障害をおこすまでの期間が、1.4日と短時間であることから、インフルエンザ関連脳症を治療で防ぐことは困難であり、むしろ予防としてのワクチン接種がその防止に重要である」との見解を述べています。
 1998/1999シーズンにインフルエンザ脳症を発症した217名中179名(82%)が0〜5歳の小児であり、58名(27%)が死亡しています。この217名の中には、インフルエンザワクチンを接種していた方はいませんでしたが、1999/2000シーズンに発生したインフルエンザ脳症の症例109名中3名(3%)が、インフルエンザワクチンを接種していた事がわかっています。つまり、ワクチンを接種していたからといってインフルエンザ脳炎・脳症を100%予防できるわけではありません。今後更なる研究・調査が急務で、ワクチンによるインフルエンザ脳症の予防効果についてはまだ結論が出ていないのが現状です。


●予防接種法関係

Q. 36: 平成13年施行の予防接種法でインフルエンザのワクチン接種はどのように位置づけられていますか?

 平成13年から予防接種法によりインフルエンザの予防接種は、定期接種の「二類疾病」となりました。「一類疾病」とは、発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病で、「二類疾病」は、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の防止に資することを目的として、予防接種法に定めるところにより予防接種を行う疾病です。これは、海外および国内の研究の成果から、高齢者へのインフルエンザワクチンの接種が重症化や死亡の防止に効果的であることが証明されたことに基づいています(Q19を参照)。
 これによりインフルエンザは全額自己負担の任意接種から、
  (1) 市町村長が予防接種機会を設けることとなったこと、
  (2) 対象者には積極的に通知がなされること、
  (3) 接種場所も通知されること、
  (4) 接種にあたって、一部公費負担が導入されること
により、全体として費用負担が減じることになりました(一部負担額は市町村によって異なります)。
 しかし、定期接種としての費用負担の軽減や、予防接種による健康被害の救済・保障が法的に認められた対象となるのは、65歳以上の方(接種日が、65歳の誕生日の前日に当たる方からが対象となります)及び、60歳から64歳までの方で、心臓やじん臓、呼吸器等に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の重い病気のある方や、ヒト免疫不全ウイルスへの感染によって免疫の機能が日常生活がほとんど不可能な程度低下している方などで、年1回の定期予防接種として受けた接種についてだけです。これ以外の方はこれまで通りの自己負担での任意接種の形になります。
   予防接種法施行令(昭和23年):
    http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1b.html
   予防接種法施行規則(昭和23年):
    http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1c.html

 また、定期予防接種により障害などの健康被害が生じたと認定された場合には、予防接種法に定められた医療費や各種手当などの給付を受けられるようになります。具体的には、健康被害の内容、程度に応じて、厚生労働省の疾病障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会)での審議を経たあと、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。支給額は医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法の規定に準じた額となります。
 http://www.kiko.go.jp/
 一方、予防接種法に基づく接種の対象者であっても、接種を強制されるものではありませんので、自らの意思で接種を受けるかどうかを判断していただきます。

 詳しくは以下のアドレスの厚生労働省ホームページ政令掲載部分をご覧下さい。
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1.html

Q. 37: 予防接種法に基づく定期予防接種の場合にワクチン接種の費用は変わりますか?

 定期予防接種の費用については、予防接種は疾病から被接種者自身を予防するという個人受益の要素があることから、市町村区(東京23区の場合は区)の判断により経済的理由により負担できない方を除き、実費を徴収することができることとされています。
 具体的な額、実費を徴収されない方の詳細については、市町村(東京23区の場合は区)によって異なりますので、Q29を参考に、居住地の市町村(東京23区の場合は区)にお問い合わせください。
 予防接種法に基づく定期接種の対象外の方は、これまでどおり、接種費用を全額自己負担していただくことになります。金額は地域、医療機関で異なりますので、接種予定病院へ直接お問い合わせください(Q25参照)。

Q. 38: 住民票と異なるところに長期滞在している場合に、現在地での予防接種法に基づくワクチン接種ができますか?

 任意接種の場合はいずれの市町村でも接種可能ですが、予防接種法による定期接種は、市町村(東京23区の場合は区)が実施するため、住民票のある市町村が指定する医療機関などで受けていただくのが原則です。しかし、市町村(東京23区の場合は区)によっては住民票と異なるところに滞在している方に便宜を図っていることもありますので、詳しくはお住まいの市町村(東京23区の場合は区)にお問い合わせください。

Q.39:痴呆の方にも予防接種法に基づく予防接種を受けさせることはできますか。

 対象者の意思確認が困難な場合は、家族又はかかりつけ医の協力により対象者本人の意思確認をすることとし、接種希望であることが確認できた場合に接種を行うことができます。対象者の意思確認が最終的にできない場合には、予防接種法に基づいた接種を行うことはできません。
インフルエンザ予防接種実施要領:
  http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1d.html
厚生労働省行政版Q&A:
  http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1g.html


●インフルエンザとSARS

Q. 40: 今年のインフルエンザシーズンにSARS(重症急性呼吸器症候群)が再び集団発生しますか?

 結論から言えば、これは世界中のだれにもわかりません。再び発生すると危惧されている理由は幾つかあります。例えば、SARSコロナウイルスはもともと野生動物がもっていて、それがヒトに感染したと考えられるため、再び同様のことがおこらないとは限らないことや、既知のコロナウイルスはインフルエンザと同じ冬季に流行することが知られていることから、冬になると流行する可能性を否定できないこと、また、前回の世界的な集団発生が冬季に始まっていること、SARSコロナウイルスが低温に強いことが実験で示されていることなどが指摘されています。 (「SARS研究のコンセンサス」参照: http://www.who.int/csr/sars/en/WHOconsensus.pdf)

Q. 41: SARSとインフルエンザはどのように鑑別すればよいでしょうか?

 SARSはSARSコロナウイルス、インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、まったく違う病原体によるものですが、初発症状は、突然の高熱、筋肉痛、全身倦怠感など極めてよく似ており、症状からは区別はつきません。また、インフルエンザは感染してから1〜3日で症状が出てきますが、SARSは感染してから発症するまで(潜伏期)に2〜10日かかります。インフルエンザは通常1週間前後で軽快しますが、SARSの場合には発熱は持続し、発病第2週頃より呼吸器症状が強くなり、10〜20%は人工呼吸器が必要なほど重症化します。しかしながら、インフルエンザであっても重症になれば肺炎を併発しますし、SARSも軽症であれば、1週間程度で軽快しますので、単純に症状のみから区別することはできません。従ってSARSを疑うときには、実際にSARS患者と濃厚な接触をしたか、介護したか、同居したか、あるいはその体液に接触したかなどの情報が重要となります。両者を鑑別するには、医療機関において各種検査を行いその結果などから総合的に判断することが必要です。 (「SARS症例定義」参照: http://idsc.nih.go.jp/others/sars/update45-def.html
 また、インフルエンザは発症早期に感染力が最も強いことが知られていますが、SARSは発病第2週の肺炎期に最も感染力が強くなりますので、SARSの非特異的臨床像、病初期の数日内に、高い確率でSARSコロナウイルスを検出できる迅速診断検査法が現時点で無いことと併せて、患者の経過観察と一般的院内感染対策を徹底しておくことが必要と考えられます。 (「SARS要観察例の管理」参照:http://idsc.nih.go.jp/others/sars/mgmt-06.html

Q. 42: 渡航中にSARSの発生が報告され、帰国後インフルエンザ様症状が出た場合どうすればいいのですか?

 平成15年10月末現在では、世界でSARSの伝播が確認されている地域はありません。つまり、以前にSARSの感染が確認された地域から帰国しただけでは、SARSを積極的に疑う根拠にはなりません。しかし、渡航中に滞在先の国でSARSの発生が報告された場合には、状況が異なりますので、SARSへの感染の可能性も考慮して対応することが必要になります。インフルエンザなどであった場合にも有効ですので、まずマスクをして、周囲の方に感染させないように配慮し、保健所や医療機関などに電話で相談された上で、医療機関を受診していただくことが大切です。事前連絡無しに直接受診し、トリアージ無しに長時間待合室で待つようなことが無いような配慮と指導が必要となります。SARSは発症早期の数日間は感染性が低いと考えられていますが、このような場合には診断されるまで、公共の交通機関の利用や大勢の人が集まる場への参加は、できれば避けるのが望ましいと考えられます。(「SARSの患者管理」参照:http://idsc.nih.go.jp/others/sars/mgmt-06.html

Q. 43: 今冬インフルエンザシーズン中に、どこかでSARSの再発生が起こった場合どうすればいいのですか?

 世界のどこかでSARSの再発生が確認された場合、WHOが即座に前回と同じように世界に向けて警告を発信します。その時点の状況に応じて、SARSの発生が確認された地域への不要不急の旅行を避けるとか、その地域から帰国された方は10日間は体温を測定し、体調に異常が見られた場合には、保健所や医療機関等に電話で相談した上で受診して頂く、などといった対応をとることになります。渡航先国や、訪問先と目的など、状況ごとに判断をする必要がありますので、常に最新の情報を入手するようにしてください。(「今冬のSARS」参照:http://idsc.nih.go.jp/others/sars/index.html

参考:
1)「今冬のSARS: SARSの集団発生終息後の期間におけるアラート、情報確認、 公衆衛生上の管理」http://idsc.nih.go.jp/others/sars/sars03w/04who.html

2)「2003-04シーズンのインフルエンザ予防接種:SARSへの配慮を含めた提言」 http://idsc.nih.go.jp/others/sars/sars03w/07infl-vc.html

3)WHOによるSARS研究に関するコンセンサス(英文) http://www.who.int/csr/sars/archive/epiconsensus/en/

4)SARS Q&A 感染症情報センター(現在改訂中) http://idsc.nih.go.jp/others/sars/update-QA01.html


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